リステDDと楽曲

アニメ Re:ステージ!ドリームデイズ♪と楽曲について書く。ネタバレばかりなのでまだ最終話まで視聴していない方はまず視聴するのがおすすめです。


プリズムステージ優勝を目指すことになってから KiRaRe のアイドルとしての成長は、劇中では詳細に描かれてはいない。元々アイドルになる夢をもっていた6人が同じ目標に向かって努力すれば短期間でもそれなりの技術を身につけられるだろう。舞菜の才能に引っ張られていることも大きい。しかし、だとしてもプリズムステージ東京予選決勝で特別枠に選ばれ全国大会への切符を手にできたのは、ライバルのオルタンシアやステラマリスと実力を比較すれば予定調和を感じる部分も少なからずある。

ところで Re:ステージ!は楽曲が強い。KiRaRe については一貫して伊藤翼が作曲編曲またはプロデュースをしていて、強みである特徴的なストリングスアレンジを取り入れるなど、アイドル作品の楽曲として他の作品と一線を画す世界観を作り上げてきた。まだアニメもゲームもなかった頃、楽曲から入ったファンは多かったと思う。自分もその口だ。アニメのオープニング曲である『Don’t think, スマイル!!』は、KiRaRe のキャストが口を揃えて今までで最強の曲だと豪語して散々上げたハードルを、KiRaRe の楽曲のフレーズを曲中で取り入れる技巧を使いながら軽々と超えてきた。オープニング尺では分からないのでぜひフル尺で聴いてみてほしいが、伊藤翼にしかできないとにかくヤバい芸当だということが分かる。伊藤翼のツイッターアカウントを見れば一発で分かる通り、コンテンツそのものに大きな愛がある。Don’t think, スマイル!! 他いくつかの楽曲の作詞を担当している高瀬愛虹も同様だ。名前を挙げた2人に限らず Re:ステージ!関係者が Re:ステージ!について語るのを見るのが自分は好きだ。

実は Re:ステージ!ドリームデイズ♪の制作過程で、音楽スタッフがシナリオ制作に関わるという業界でもかなり稀なことが起こっていた。結果、コンテンツの柱である楽曲の強みを活かしながら、全12話という短い枠のなかで KiRaRe がプリズムステージ予選東京決勝でライバルと奮闘するのに説得力を持たせた「楽曲から別の新しい楽曲を生み出す展開」が生まれた。スーパーコンピュータでステラマリスとの勝率を計算したときに、楽曲を修正することは変数に組み込んでいなかった、という丁寧な導入付きでだ。これは原作にはない内容で、かつアニメーションだからこそ表現可能な、原作の行間を埋める素晴らしい脚本だ。『Don't think, スマイル!!』の B 面は既存曲の『憧れFuture Sign』のアレンジだったが、まさか劇中で曲がアレンジのレベルを超えてメロディ以外のすべてが変化していくことを示唆していたとは予想だにしなかった。「例のシーン(公式)」も11話12話の後では少し違った角度で見れる……かもしれない。実は自分たちで曲を作るという設定は、その現実性はともかくとして公式に存在しており、それが「課題曲投票戦」だ。プリズムステージ予選大会で用意された課題曲を元に、準決勝に向けて自分たちの歌をつくることになり、2人ずつのペアに分かれて持ち寄った楽曲、という設定の歌をファン投票によって選び、1位になった歌を採用して完成版とする、という常識はずれの企画である。この企画で生まれたのが『君に贈るAngel Yell』だ。『夏の約束』も後に同様の企画で生まれたものである。この企画が元となったかどうか定かではないが、曲を自分たちで作る要素をアニメに取り入れ、『キラメキFuture』から『OvertuRe:』へのフォームチェンジを披露してきたのは称賛したい。メロディこそ同じであるが主題は全然違って聞こえる。監督の方は、アニメを制作することが決まってからまもなくこの構想があったことを明かしている。また同時に、アイドルアニメの制作に対して当初は強い気持ちがなかったものの楽曲からハマりコンテンツそのものにのめり込んだことも明かしていて、それはまさにファンそのもので、この構想が生まれたのに説得力があり、実際アニメが始まる前から Re:ステージ!を知っていたファンも納得するシナリオの完成度の高さだったと思う。アイドルと楽曲は切っても切り離せない関係性を理解して、Re:ステージ!の楽曲の強さを織り交ぜてこのような形でアニメーションに落とし込んだことは本当に素晴らしい。

そんな素晴らしい展開で生まれた新しい楽曲を、ライブステージで見ることができたのは本当に嬉しい。モーションキャプチャーで制作した3D映像からつくられた手書きカットによるライブシーンは、3D映像によるハイクオリティなライブシーンが流行る今だからこそ、胸に強く訴えかけるものがあるのだと思う。正直作画のクオリティに度肝を抜かれた『キラメキFuture』のステージでは、一度は夢を諦め、ステージの直前でまた逃げ出そうとしていた舞菜が、「ほどけたままのキミの靴紐 絆で強く結び直し 走り出そう」と穏やかな笑顔で歌い出し、続く紗由へと目配せする姿にはたまらず涙が溢れた。紗由のアイドルポテンシャルは本物だったし、ステージに立って真剣に歌い踊るかえには夢を見るだけの少女の面影は全く無かったし、調和のとれたダンスを披露する瑞葉は苦手だったリズム感を相当な練習量で克服してきたことが分かるし、自分自身の声で歌う自信に満ち溢れた香澄、そして美少女アイドル長谷川みぃの姿があった。ステージの KiRaRe は間違いなく絶対的に KiRaKiRa していたし、曲が終わってからの刹那の静寂、メンバーの息遣いとしたたる汗。すべてが綺麗だった。やはりアイドルアニメでは、アイドルが輝いているところが見たい。オタクなので直球勝負に弱い。

いくら手書き作画とはいえ、7話と12話のステージでキャラクターの心情の差まで描くのは難しい。そこで12話の『OvertuRe:』では大胆にフルサイズを披露しながら、モノローグでキャラクターの心情を表現している。モノローグで語られていることは、「Re:」への繋がりそのものであると同時に、舞台が6人による「ステージ」なのが胸を震わせる。『OvertuRe:』の意味は「序曲」で、アニメは終わってしまうがまたここが新しいスタートライン、という希望あふれるメッセージも感じさせる。Re:ステージ!の強み、それは挫折を経験した状態から物語が始まるため、「何度でも」「もう一度」再出発できることである。Re:ステージ!というタイトルがそのまま主題になっているからこそ無限の可能性を思わせる魅力がある。「序曲」の終盤、Re:ステージ!始まりの曲である『Startin’ MY Re:STAGE!!』のフレーズへと繋がっていることに気づいたときは鳥肌が立つほど感動した。作曲者によれば狙ったのではなく自然にそうなったとのこと…。最後のエンディングは『367Days』。8話の『宣誓センセーション』といい、既存の楽曲の使い方がなかなかにくい。『367Days』は KiRaRe 6枚目のシングルで、2nd ライブでアニメ化がサプライズで発表された直後に披露された曲でもある。アニメ化が決定してから先行上映会に至るまで、アニメ化の実感が沸かないと不安がっていた KiRaRe のキャストだったが、スタートから4年の年月を経てアニメ化という夢が実際に叶ったことを KiRaRe のキャラクターたちが感謝しているようにも感じた。最終話放映後に KiRaRe 以外のキャスト含めて、歌詞を引用して「今日までありがとう そしてこれからもよろしくね」とツイートしていたのはズルい。夢が一つ叶えば、また次の夢が始まる。「ドリームデイズ」というタイトルに相応しいエンディングだった。3rd ライブは一ヶ月後にまで迫り、トロワアンジュとテトラルキアの新アルバムも発表され、まだまだ勢いは止まらない Re:ステージ!。次の夢も目が離せない。